風と窓


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 窓の役割を考えるとき、光を取り入れることは当然として、通気性という点も非常に重要となります。しかしながら、近頃は空調設備が普及したせいか、風通しということを二次的に考える方が増えているように思えます。特に建築の専門家に多く見られるのは残念なことです。省エネルギーの観点に沿った密閉住宅を、国をあげて奨励している時代ですから、通気性を考える建築家は少数派なのかもしれません。
風通しの良い家というと、隙間風の通る昔の家を連想させるかもしれませんが、そうではなく、部屋の窓の配置によって、自然の風が心地よく通り過ぎる家をさします。もちろん窓を閉めたときは、部屋の機能としてきっちり密閉されることは言うまでもありません。
自然の空気の流れ、いわゆる「風」が、人間ばかりでなく、生物全般にとっても大切なことは少し自然に触れれば気がつくことです。先日、我が家の庭にあるコノテガシワという木が芯のほうから枯れ始めました。見るからに元気がありません。近所の植木屋に相談すると、このまま芯の近くの枯れ木を放っておくと木全体が枯れてしまうから、かれた枝をすきとって風通しをよくしなさい、そうすれば緑の葉が再びよみがえりますよと教えてくれました。
 またヒノキや杉の植林では、苗木は密に植えても、成長したら間引きをします。そのままだとお互いの木や枝が通気や採光の邪魔をして、根も幹も枝も充分に育たないからです。しまいには共倒れを起こします。人手不足で間引きができず、大雪で倒木してしまった山林の話を聞かれたことがあると思います。
風は、植物にとって命ともいえる新鮮な酸素を供給しますが、人間や動物にも大事なものです。自然の風はながれや速さが不連続であり、温度も微妙に異なります。休息のある刺激を与えてくれるところに心地よさの秘密があるのでしょう。
 室内の密閉と省エネルギーにだけ重点を置いた、温度調節中心の空調システムは科学的といえるでしょうか。定まった温度と等しい速さの風が、直接皮膚にあたるのは不健康な気がします。生命にとって、自然の健やかな風邪を取り入れることも考え合わせた住まいの建築こそ科学的で合理的です。
窓の大きさ、位置、配置は省エネルギー密閉住宅の設計でも重要なポイントなのです。“自然や人間の生命こそ最大の化学である”と思います。


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